「わざと問題行動を起こす子の対応に困っている」
「注意しても逆効果で、どうしたら良いのかわからない」
子どもがわざと問題行動を起こし、大人の反応を見る行為を「試し行動」といいます。
試し行動は幼児期の子どもによく見られる行為ですが、小学生になってからも試し行動をする場合があります。
そのため、先生の中には子どもが何をしたいのか理解できず、対応に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、試し行動の意味や具体例、小学生が試し行動をする心理やおすすめの対応方法について解説します。
子どもの言動に振り回されず、冷静に対処したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
私も教員時代は、子どもの試し行動に悩むことが多かったです…!
試し行動とは?
試し行動とは、相手が自分をどこまで許してくれるのかを確認するために行う挑発的な言動のことです。「リミットテスティング」とも呼ばれています。
子どもの問題行動は、善悪の区別がつかないために生じるパターンが多く見受けられます。一方、試し行動は子どもが「それをやってはいけない」とわかった上で、意図的に問題行動を起こすのが特徴です。
ここからは、試し行動の目的や具体例を解説していきます。
試し行動の目的
試し行動は、周りを困らせるのが目的だと思われがちですが、実は違います。
「この人は本当に信頼できるのか」「自分は嫌われていないか」と、相手との関係性を確かめるのが試し行動の目的です。
安心して信頼関係を築くために、子どもは試し行動を通して大人の許容度を把握したり、自分を受け止めてくれるか確認したりします。
つまり、試し行動は子どもが周りの人間関係や環境に適応しながら成長するために必要な行為といえます。
子どもの言動に振り回される日々が続くと、多くの先生はどうすれば良いかわからず自信を失ってしまうかもしれません。しかし、試し行動は子どもが「先生と信頼関係を築きたい」と思うからこそ生じる行為です。
子どもが試し行動をする本来の目的を理解し、問題行動が続いても落ち着いて対応するようにしましょう。
「子どもに嫌われているのかも……。」と思う必要はありませんよ!
【場面別】試し行動の具体例
小学生の場合、子どもは以下の試し行動をすることが考えられます。
【授業中】
・教員の指示を無視する
・教室内を立ち歩く
・友達にちょっかいをかける
・周りの話を遮って発言する
【休み時間】
・何度注意しても廊下を走り回る
・友達に悪口を言ったり暴力を振るったりする
・遊びのルールを破る
・友達が持っているものを無理やり取る
【その他】
・給食中に食べ物をわざとこぼす
・掃除中に抜け出して遊びに行ったり帰ったりする
・登下校中に他学年の子に嫌がらせをする
・周りの状況に関係なく過度に甘える
このように試し行動は、授業中だけでなくさまざまな場面で起きるでしょう。
時には、子どもが大人を困らせて楽しんでいるように見えてしまうかもしれません。しかし、実際には「安心して関係を築きたい」という気持ちがあります。
試し行動と反抗期を見分けるポイント
試し行動と反抗期の言動は、似ている部分が多く見分けがつきにくいため、指導をする時には注意が必要です。
反抗期とは、子どもが大人の価値観に激しく対抗したり、否定したりする時期のことです。基本的に、反抗期は高学年で始まるといわれていますが、低学年や中学年で反抗的・挑戦的な態度になる場合もあります。
一方、試し行動は「どこまで許されるか確かめたい」「愛されたい」という気持ちが強いため、以下の特徴が見られます。
- 悪いことだとわかっているのに繰り返す
- 先生の顔色を確かめながら問題行動を起こす
先生をチラチラと見たり、近くにいる時だけ問題行動を起こしたりする場合は、試し行動の可能性があるでしょう。
子どもが問題行動を繰り返す時は、試し行動・反抗期のどちらかなのかを見極めた上で、対応を考えることが大切です。
小学生が試し行動をする3つの心理
小学生が試し行動をする時、そこには3つの心理が隠されています。
- 大人からの愛情を確認したい
- 新しく出会った人を試したい
- 環境の変化による不安を解消したい
試し行動の裏にある気持ちを理解することで、適切な対応につなげられます。
1.大人からの愛情を確認したい
小学生の試し行動に隠された心理の一つは、大人からの愛情を確認したいという気持ちです。子どもは愛情不足を感じると「自分は本当に愛されているのか」と不安になり、試し行動をすることがあります。
たとえば、以下のような状況に直面すると、子どもは愛情不足を感じやすいかもしれません。
- 家庭で弟や妹が生まれ、両親が育児で忙しくなる
- 学校で先生が他の子にかかりきりになる
愛情不足による試し行動は、虐待経験や愛着障害がある子だけに見られると思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。周りの大人に注目される機会が少なくなることで、愛情不足を感じる可能性は誰にでもあります。
子どもが愛情確認のために試し行動をする場合は、褒めたり会話したりする機会を増やして安心感を与えましょう。
【補足】愛着障害がある子の試し行動とは?
愛着障害とは、幼少期における特定の養育者との愛着(情緒的な絆)形成に問題がある状態のことです。
幼少期に虐待されたり、何らかの理由で両親と引き離されたりした子どもは、愛着形成に問題を抱えやすいといわれています。そのため、愛着障害がある子は人間関係で安心感を得にくく、試し行動をする可能性があります。
深刻な愛着障害がある子の場合だと、以下のように試し行動が複雑化するかもしれません。
- 「先生は特別だよ」と愛情を示す一方で「◯◯してもいいなら、△△のルールは守ってあげる」と主導権を握る
- 「先生大好き!」と甘えた翌日に「大嫌い」と言って他の教員に甘える姿を見せる
友達に嫌がらせしたり、ルールを破ったりする試し行動と違って本心をくみ取るのが難しいため、多くの先生は困惑するでしょう。
ただし、どのような場合でも試し行動をする子には、時間をかけて愛情を示し安心感を与えることが大切です。「愛情を確かめたい」という子どもの気持ちを理解した上で、冷静に対処しましょう。
私も子どもの暴言に落ち込みましたが、些細なコミュニケーションを積み重ねて少しずつ関係を築きました。
2.新しく出会った人を試したい
小学生の試し行動には、新しく出会った人を試したい心理も隠されています。意図的に問題行動を起こすことで相手を試し、どのような人かを知るのが目的です。
小学校の場合、新年度でクラスや担任の先生が変わった時に、以下のような試し行動があらわれるでしょう。
- 授業中におしゃべりしたり、突然立ち歩いたりする
- 先生の指示にわざと反抗する
- 給食・掃除の時間に遊ぶ
他にも、友達に危害を加えたり、先生の揚げ足を取ったりする場合があるかもしれません。
しかし、ここで指導を諦めたり何でも許したりしてしまうと、本当に善悪の区別がつかなくなって問題行動がエスカレートする可能性があります。
良いこと・悪いことの線引きをはっきりさせて、メリハリのある指導を心がけましょう。
3.環境の変化による不安を解消したい
環境の変化による不安を解消するために、試し行動をする場合もあります。
大人に限らず、子どもであっても環境の変化にはストレスを感じるものです。
たとえば、入学直後の1年生は保育園や幼稚園で仲の良かった友達と離れてしまい、不安を抱えているかもしれません。
クラス替えをした場合も、新しい先生や同級生と良好な関係を築くまでは、ストレスを感じるでしょう。
また、他の学校から転校してきた子は生活環境が大きく変わるため、不安を解消するために試し行動をする可能性があります。
環境の変化による不安から試し行動が生じている時は、まず子どもの気持ちを優しく受け止めましょう。その上で、問題行動については「これはダメだよ」「次からはこうしようね」とはっきり伝えることが大切です。
試し行動の原因は色々とありますが、どんな場合でも感情的にならず子どもの気持ちに寄り添うのが基本です。
小学生の試し行動もこれで改善!おすすめの対応方法
小学生の試し行動には、以下4つの方法で適切に対応しましょう。
- ダメなものはダメだと伝える
- 問題行動の理由を聞いて気持ちを受け止める
- 積極的に褒める機会をつくる
- 過剰に反応しないことも大切
厳しく注意するポイントと、優しく接するポイントを明確に区別することで、指導の基準がはっきりして対応しやすくなります。
一貫性のある指導ができると子どもの信頼感が高まり、試し行動の回数が少なくなっていきます。
ダメなものはダメだと伝える
試し行動に隠された気持ちを考えると「少しは問題行動を許したほうがいいのかな」と思うのは自然なことです。
しかし、子どもの問題行動を許容しすぎると、試し行動がエスカレートしたり善悪の判断をつけられなくなったりする可能性があります。たとえ寂しさや不安から生じた行動であっても、ダメなものはダメだと伝えるようにしましょう。
ポイントは、子ども自身を否定するのではなく、良くない行動に対してだけ注意することです。
たとえば、友達を叩いてしまった場合は「本当に君はダメな子だ」と叱責するのではなく「友達を傷つけるのはダメなことだよ」と伝えます。そして「嫌な気持ちは言葉で伝えようね」と、適切な行動を具体的に教えましょう。
すぐには改善されないかもしれませんが、根気強く関わり、少しでも良い行動が見られたら褒めるようにすると、少しずつ試し行動が減っていきます。
子どもが自分のした行為を忘れないうちに、ダメな理由や適切な行動を伝えましょう。
問題行動の理由を聞いて気持ちを受け止める
子どもが試し行動をする時は、理由を聞いて気持ちを受け止めることも大切です。
小学生だと、理由を聞かれても気持ちをうまく言語化できない子のほうが多いでしょう。しかし、子どもの話を聞いて気持ちを理解しようとするだけでも「真剣に考えてくれている」と安心できる場合があります。
子どもから問題行動の理由を聞く時は、以下のポイントを意識しましょう。
- 最後まで話を聞く
- 子どもに目線を合わせる
- 子どものペースに合わせて相槌を打つ
話を遮ったり中断したりせず最後までしっかり聞くと、子どもは「自分の気持ちを受け止めてくれた」と感じやすくなります。
また、子どもの話すスピードやテンションに合わせながら相槌を打つことで、安心感を与えられるでしょう。
試し行動の理由がわかったら「◯◯が嫌だったんだね」「寂しかったんだね」と、共感することも重要です。優しく気持ちに寄り添うことで、子どもは先生からの愛情を実感できます。
私の場合、話を要約するイメージで子どもの気持ちを言語化していました。
積極的に褒める機会をつくる
小学生の試し行動をなくすには、スキンシップで愛情表現をする方法も効果的です。しかし、先生は保護者ではないため、子どもにスキンシップをとるのは難しいかもしれません。
そこで、スキンシップの代わりとして積極的に褒める機会をつくりましょう。試し行動が改善された時はもちろん、他の場面でも子どもの頑張りを褒めることで、安心感や信頼につながります。
たとえば、先生の指示を無視する子の行動が改善された時は「話を聞いてくれてありがとう」と褒めるようにします。
「挨拶が元気で気持ちいいね」「ノートの書き方が丁寧だね」など、些細なことも褒めるようにすると、先生からの愛情を感じられるかもしれません。
また、スキンシップがとれなくても積極的に話したり遊んだりすることで、子どもの満足度が高まり気持ちが安定する場合もあります。
子どもが試し行動を繰り返す時は「ダメなものはダメ」と教えるのはもちろん、たくさん褒めて愛情を伝えることも大切です。
過剰に反応しないことも大切
子どもの試し行動に対して過剰に反応しないことも心がけましょう。
多くの先生は、試し行動を見た時に「早く何とかしなければ」という思いから、必要以上に反応してしまうかもしれません。
しかし、試し行動の時だけ注目したり愛情を伝えたりすると、子どもは「こうすれば自分を見てくれる」と誤った学習をする可能性があります。そして同じ問題行動を繰り返し、先生の気を引こうとするでしょう。
これでは試し行動が減るどころか、ますますエスカレートするだけです。また、試し行動を見た他の子が真似をして収拾がつかなくなる場合もあります。
このような誤学習を防ぐためには、試し行動が起きても普段通りの対応を心がけることが大切です。
日頃から積極的に褒めるのはもちろん、試し行動をした時は子どもの気持ちを受け止めつつ、良くない行動についてしっかりと注意しましょう。
試し行動の有無にかかわらず、いつも同じ対応をすることで一貫性のある指導ができます。
小学生の試し行動に関するよくある質問
ここからは、小学生の試し行動によくある質問を紹介します。
- 試し行動を無視するとどうなる?
- 発達障害がある子の試し行動にはどう対処したらいい?
それぞれ詳しく見ていきましょう。
Q.試し行動を無視するとどうなる?
小学生の試し行動は「相手を信頼しても大丈夫か」「自分は嫌われていないか」を確かめるために行う行為です。
そのため、試し行動を無視すると子どもの「信頼したい」「愛情を確認したい」という欲求が満たされず、逆効果になる可能性があります。
他にも、以下のような対応は避けましょう。
- 乱暴な言葉を浴びせる
- 他の子と比較する
大人に乱暴な言葉を浴びせられると、子どもは恐怖心を覚えます。
また「他の子はルールを守っているのに、何であなたはできないの」と、他の子と比較して非難する対応もNGです。
子どもの試し行動には無視や暴言ではなく、気持ちを受け止めた上で「なぜダメなのか」を丁寧に伝えましょう。
Q.発達障害がある子の試し行動にはどう対処したらいい?
発達障害がある子の場合、試し行動と思われる行為でも、その子が持つ特性が原因となっている可能性も考えられます。
たとえばADHD(注意欠陥・多動性障害)の子は、感情の抑制が難しく、授業中に騒いだり立ち歩いたりすることがあるでしょう。
ASD(自閉スペクトラム症)の子であれば、こだわりの強さから周りのペースに合わせられないかもしれません。
発達障害がある子の試し行動を見極めるためには、その行為が意図的かどうかに注目しましょう。わざと騒いだりルールを破ったりしている場合は、特性によるものではなく、試し行動の可能性があります。
試し行動であることが判明した場合は、子どもの特性に合わせつつ、積極的に褒めたり適切な行動をわかりやすく説明したりしましょう。
また、発達障害がある子は周りに比べて苦手なことが多く、自信を持てないために試し行動をする場合があります。そこで、自信をつけるために日頃から小さな目標を設定し、達成感を味わえる機会を増やす方法もおすすめです。
私は、子どもが目標を達成したらシールを貼ったりスタンプを押したりして、わかりやすく達成感を得られるようにしていました!
まとめ
本記事では、試し行動をする小学生の心理やおすすめの対応方法について解説しました。
小学生の試し行動は、どこまで自分を許してくれるかを探ることで、大人からの愛情を確かめる行為です。
そのため、子どもの試し行動が見られた場合は、先生が積極的に褒めたりコミュニケーションをとったりすることで愛情を伝える必要があります。
しかし、周りを困らせる言動については「なぜダメなのか」「どうすれば良いのか」をきちんと伝えなければなりません。先生からの愛情を実感し、自分の気持ちを受け止めてもらうことで子どもの試し行動は徐々に減っていくはずです。
本記事で解説したポイントを押さえ、試し行動を繰り返す子に粘り強く対応し、安定した信頼関係を築きましょう。